アレルギー疾患対応(アトピー・花粉症・ダニアレルギー・喘息)
私たちの体には、外から入ってきた敵をやっつけようとする『免疫』という仕組みが備わっています。
本来は身を守るための仕組みですが、この仕組みが食べ物や花粉など体に害を与えない物質を「敵だ!」と過剰に反応して自分自身を傷つけてしまうことで出てくる症状がアレルギーです。つまり、免疫反応のエラーです。
アレルギーの原因となる物質(アレルゲンまたは抗原)が体の中に入ってくると、これをやっつけようとする「IgE抗体」というたんぱく質がつくられます。再度アレルギーの原因になる物質が体の中に入ってくるとIgEと反応し、かゆみなどの症状が出てきます。
アレルギーには4つのタイプがあります。一番多いものはアレルギーの原因物質が体の中に入った直後から数時間以内に症状が出る『Ⅰ型=即時型』というタイプです。このタイプにはIgE抗体が関係しています。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎とは
もともとアレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)の人や、皮膚のバリア機能が弱い(乾燥肌・肌荒れ)人によく見られる皮膚の炎症を伴う病気です。
主な症状は「湿疹」と「かゆみ」で、良くなったり悪くなったりを繰り返し(再発)6か月以上(乳幼児では2か月以上)続くことが特徴です。
原因
アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能の低下やアトピー素因(体質)をはじめ多くの要因が関連し発症します。
アトピー素因とは、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数を自分自身や家族がもっている、またはIgE抗体を産生しやすい体質のことを指します。
IgE抗体はアレルギーの原因となる物質(アレルゲンまたは抗原)が体の中に入ってくると、これをやっつけるために作られるたんぱく質です。再度アレルギーの原因になる物質が体の中に入ってくるとIgE抗体と反応し、かゆみなどの症状が出てきます。IgE抗体が関与するアレルギー反応を『Ⅰ型=即時型』と呼びます。
症状
アトピー性皮膚炎では痒みのある湿疹が、体のさまざまな部位に左右対称性に、慢性的に繰り返してみられます。湿疹ができる部位は年齢によっても異なりますが、おでこ、眼の周り、口の周り、耳の周り、首、肘・手首・膝・足首などの関節部分、体によくできます。
乳児期あるいは幼児期から発症し小児期に改善するか、あるいは改善することなく再発を繰り返し、成人になっても症状が持続してみられることもあります。また、唾液、汗、髪の毛の接触、服による摩擦、かきむしることによる刺激、シャンプーやリンスなどのかぶれ、ダニ、ほこり、花粉、ペットの毛などを吸い込むこと、食物、ストレスなどで悪化することがあります。
検査・診断
アトピー性皮膚炎の診断や重症度の参考にするため、血液検査で血清IgE値、末梢血好酸球数、血清LDH値、血清TARC値などを測ります。TARC値は治療の効果を評価するためにも使用します。
治療
アトピー性皮膚炎そのものを完全に治す治療法はないため、治療の最終目標(ゴール)は、症状がないか、あっても軽く、日常生活に支障がなく、薬をあまり必要としない状態に到達し、それを維持することです。
治療内容としては炎症を起こしている湿疹に対しステロイド外用薬やタクロリムス軟膏による外用療法を主とした薬物療法、皮膚の生理学的異常(皮膚の乾燥とバリア機能低下)に対し保湿剤外用によるスキンケア、痒みに対して抗ヒスタミン薬の内服を補助療法として併用し、悪化因子を可能な限り除きます。
アトピー性皮膚炎では、「皮膚のバリア機能」が弱まっているため、外からの異物が容易に皮膚の中まで入りこみアレルギー症状を強くします。早期から皮膚バリア機能を正常化することが大切であり、スキンケアが重要な位置を占めます。
外用薬の『塗り方』にもポイントがあります。皮膚のしわに沿って塗ることで塗るときの摩擦を抑えることができ、外用薬が白く残りにくいので塗る時間の短縮効果もあります。
予防と治療後の注意
アトピー性皮膚炎の合併症としては、食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などのアレルギー疾患を発症することが多いです。また皮膚のバリア機能の低下などにより伝染性膿痂疹、丹毒、蜂窩織炎などの細菌性、カポジ水痘様発疹症、伝染性軟属腫などのウイルス性の感染症をしばしば併発します。
炎症が軽快して一見正常に見える皮膚も、顕微鏡でみると炎症細胞が残存し、再び炎症を引き起こしやすい状態にあるため再燃をよく繰り返す湿疹に対して、炎症が改善した後に、保湿外用薬によるスキンケアに加え、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を定期的に(週2回など)塗布し、皮膚が良好な状態を維持する治療法であるプロアクティブ療法を行っていきます。
アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎とは
1年を通してくしゃみ・鼻のかゆみ・鼻水・鼻づまりがある場合はダニアレルギーである可能性が考えられます。突然で繰り返し起こる鼻のかゆみ・くしゃみ・鼻水・鼻づまりは朝起きた時や気温の変化があるときに起こりやすいと言われています。
原因
アレルギー性鼻炎の主な原因はスギ花粉・ダニ・カビ・昆虫・ペットの毛などが知られています。鼻の症状以外に目のかゆみや涙目を伴うこともあります。花粉が原因で起こるアレルギー性鼻炎を『花粉症』と呼びます。
アンケート調査によると、日本人の 23.4%、つまり約4人に1人がアレルギー性鼻炎(花粉症)にかかっているそうです。
症状
くしゃみ・鼻水・鼻づまりが主な症状です。
つらい鼻の症状(花粉症)は集中力の低下をもたらすため、勉強や仕事、家事などに支障が出たり思考力が低下したりします。
鼻水は透明でサラサラな鼻水のことが多いです。鼻づまりは鼻水で詰まってしまうこともありますが、多くは鼻の粘膜が腫れてしまい鼻の中がふさがってしまうことで起こります。
検査・診断
アレルギー性鼻炎(花粉症)の診断には詳しい問診が欠かせません。問診により疑わしい原因を選択し血液検査を行います。また、鼻の中を観察し粘膜の状態を確認して診断します。
治療
アレルギー性鼻炎(花粉症)の治療は原因の除去・回避・薬の服用がメインとなります。
抗アレルギー剤の種類はたくさんあり、1日に2回飲むもの・1日1回でよいもの・水で飲む錠剤や粉・水がなくても口の中で自然に溶ける薬など様々です。内服薬で不十分な場合は鼻にお薬を入れる点鼻薬の併用や漢方薬が効果的なことがあります。漢方薬は効果が出るのが遅いと思われる方もいますが、花粉症の時に使用する漢方薬は効果が出るまでが早いです。頓服での使用も可能です。
しかし、原因の除去・回避には限界があり薬の服用では眠気の副作用があります。
そこでおススメしたい治療が『舌下免疫療法』です。
舌下免疫療法はアレルギーの原因となるもの(アレルゲン)を少量から投与することで体をアレルゲンに慣らし、症状を和らげたり根本的な体質改善が期待できる治療法です。
治療期間は3~5年の長期となります。舌の下に自然に溶けるタブレットを乗せて1分間口を閉じておくことができる年齢から開始できます。目安としては10歳前後です。
現在はスギ花粉とダニによるアレルギー性鼻炎に対して治療が可能です。親子で開始することで治療へのモチベーションも高まり継続できる可能性が高まります。
詳しくはこちらのサイト『トリーさんのアレルゲン免疫療法ナビ』をご覧ください。
気管支喘息
気管支喘息とは
気管支喘息は、急に空気の通り道となる気管支が狭くなってしまい、「ヒューヒュー」「ゼーゼー」「ゼロゼロ」し始めて呼吸が苦しくなる状態(いわゆる発作)を繰り返す病気です。
気管支喘息では、気管支に慢性的な炎症が起こっているために簡単な刺激が入っただけでも気管支の壁が腫れたり、粘液(痰)が分泌されたり、気管支の周りの筋肉が縮もうとしたりして気管支が狭くなってしまい発作が起こります。そのため、炎症を治さない限りいつまでも発作が出現します。さらに、長く炎症が続いてしまうと気管支自体が硬くなって治療が難しくなる「リモデリング」といった状態に陥ってしまいます。
詳しくはこちら『おしえて 先生!子どものぜん息ハンドブック(PDF)』をご覧ください。
原因
気管支喘息の症状を悪化させる原因には以下のようなものがあります。
- ●風邪などの感染症
- ●ダニやペットの毛など(吸入タイプのアレルゲン)
- ●天候や大気汚染
- ●受動喫煙
- ●激しい運動
- ●カビ
- ●ストレス
- など
症状の原因が何かを正しく知ることでその対策を考えることができます。
検査・診断
何度も「ヒューヒュー」「ゼーゼー」「ゼロゼロ」したり風邪をひいた後にせきが長引いたりするのは気管支喘息の可能性があります。一方で、気管支喘息以外にも同じ様に症状を起こす病気もあります。そのため、問診(気管支喘息が疑われる場合には詳しい症状の経過や家族のアレルギー、生活環境などの確認)や診察、検査(血液検査、胸部X線検査、呼吸機能検査、呼気NO検査、気道過敏性試験、気道可逆性試験:全ての検査が全ての方に必要な訳ではありません)を行って総合的に気管支喘息を診断することが必要になります。
ただし、乳幼児(5歳以下)の方はもともと気管が大人に比べて細く、やわらかいので喘息以外でも症状が起きやすいという特徴があります。また、呼吸機能検査や呼気NO検査などの検査を低年齢で行うのは難しい検査です。そのため、2017年のガイドラインから診断が難しい場合には一度喘息の治療を開始して発作が減るかをみることも推奨されています。
当院では問診・診察・血液検査などを行います。年長児で以下の検査が可能と判断した場合には地域連携病院(住友病院小児科)と連携して検査を行っていきます。
呼吸機能検査
大きく息を吸った状態から、一気に息を吐ききる検査で、スパイロメトリーとも呼びます。気道がどの程度狭くなっているかを客観的に評価する方法で、喘息の診断や重症度、治療効果などを評価します。
気道過敏性検査
薬物吸入負荷試験(発作が起こる可能性がある薬物を低濃度から吸入して検査をする方法)を行い発作が出やすいような状態にして、呼吸機能検査を行い、どの程度呼吸機能が低下するかを調べる検査です。
呼気一酸化窒素(NO)検査
吐く息の中に含まれる一酸化窒素(NO)の量を測る検査です。一酸化窒素は、気管支の炎症が悪くなると数値が上がります。この値をみることで、喘息の状態や、正しく治療が出来ているかを評価します。
治療
気管支喘息の治療については普段の治療(長期管理)と気管支喘息発作への対応を分けて考える必要があります。
長期管理においては喘息をよく理解した上で、次の3本柱を実践することが大事です。
- ①喘息を悪くする原因を減らす
- ②気道の炎症を抑えるために薬を使用する
- ③発作が起こりにくくなるように体力をつける
①悪化因子への対策
気管支喘息の悪化要因について個人毎で対策をたてます。対策の例としてダニ(日本では特に悪化因子として頻度が高い)であれば自宅の掃除掛けや布団の管理をこまめにすることでダニの繁殖を減らす対策を行うなどといったものです。
原因の除去・回避には限界もありますが、炎症の原因となる悪化因子への対策を行うことは薬を減らすためにも有効です。
②薬物療法
長期管理薬(主に炎症を抑えるために普段から使用して発作を予防する薬剤)を使用します。
主な長期管理薬
Ⅰ吸入ステロイド薬
気管支局所に効果を発揮して炎症を鎮めます。直接的なため、少ない量で効果が得られ、内服や点滴を長く継続した時のような副作用は起こりません。年齢に応じていくつかの種類の薬があります。全年齢で気管支喘息長期管理の主役です。
Ⅱロイコトリエン拮抗薬
飲み薬です。吸入ステロイドに比較すると炎症を鎮める効果は弱くなりますが、飲み薬という手軽さがあります。比較的軽症の症例でこの薬剤だけで治療を行うこともありますが、より重症な例では吸入ステロイドといっしょに使用することもあります。
③体力作り
適度な運動やバランスとのとれた食事、十分な睡眠、規則正しい生活は気管支喘息に限らず大切です。喘息の悪化因子として「激しい運動」がありますが、成長期のお子様ですので十分な治療や対策を行って運動をすることは大切です。
また、肥満も喘息の悪化因子なので適切な生活習慣も大事です。
自宅での発作への対応
以下の症状がある場合は気管支喘息発作が強いサインです。
強い喘息発作のサイン(小児)
- ●遊べない、話せない、歩けない、食べられない、眠れない
- ●顔色が悪い、ボーっとして興奮している
- ●強い「ゼーゼー」がある、ろっ骨の間がはっきりとへこむ、脈がとても速い
- など
強い喘息発作のサイン(乳幼児)
- ●母乳やミルクが飲めない、咳き込みで眠れない
- ●唇や顔色が悪い、機嫌が悪くて興奮して泣き叫ぶ
- ●激しく咳き込み嘔吐する
- ●息を吐く特に強い「ヒューヒュー」「ゼーゼー」「ゼロゼロ」やうなり声がある
- ●呼吸が速い・あらい、息を吸うときにろっ骨の間がはっきりへこむ、小鼻が開く
- ●胸の動きがいつもと違う
- など
これらの症状がある場合は直ちに医療機関への受診が必要となります。ただし、上記のようなサインがなくても発作時に対応するための薬(後述)をお持ちでない場合や、薬を使用して1~2時間経過しても改善しない場合、息苦しさが強い場合は原則として医療機関を受診してください。
発作治療薬(主に気管支を拡げる作用を持つ薬剤)
主な薬にβ2刺激薬などがあります。β2刺激薬は発作が起きた時の狭くなっている気管支を拡げる効果があり、即効性(テープの薬については効果が出るまでに時間がかかるので発作の際には不向きです)があります。
ただし、注意して頂きたいのはこの薬には炎症を抑える効果はありません。そのため、発作が起こる毎にこの薬を使うだけの対応では不十分でありデメリットしかありません。発作が出た時には使用が必要ですが、まずは普段の治療で発作が出ないようにすることが大事です。
治療の実際
気管支喘息の診断がついた場合には、まず前述したような3本柱を踏まえて対策や治療を選択します。気管支喘息治療の目標は発作がない状態を保つことです。ただし、発作が出現した場合に備えて程度に応じた対処方法を事前に確認することも大事です。
治療開始後は、現在の治療でよいか定期的に経過をみます。具体的には発作の頻度や強さ、その時の悪化因子を確認します。今までの発作の状態や治療を総合的に評価し喘息の重症度を推定し、その上で対策や治療薬の見直しを行います。